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理科実験の試み
生物教員である作者による理科実験の実践や試みの紹介
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はじめに
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方法
結果,成果
考察,コメント
参考,文献


豚の腎臓の血管標本

作業時間:約3日 時間のかかる手順があり、1時間の授業では無理です。



■ はじめに ■
  • 豚の腎臓の血管標本です。しかし、腎臓は検査のため深い切れ目をいれているので、完全な腎臓は入手できませんでした。それでも血管が複雑に入り組んでいるのは多少ともわかるだろうと思います。
  • また、ちょっとしたオブジェとしてどうですか?



■ 用意するもの ■
  1. 豚の腎臓・・・近隣にあるグリコの工場に電話をして、腎臓を分けてもらいました。しかし、検査のため必ず腎臓にナイフを入れなくてはいけないそうで、傷の付いたものしか入手できませんでした。
  2. シリコン・・・サッシ等の隙間充填用のシリコンです。ホームセンターの日曜大工コーナーなどで、200円前後で販売しています。
  3. シリコン充填用コーキングガン・・・日曜大工コーナーなどで、200円程度で販売しています。
  4. 1M水酸化ナトリウム・・・肉を溶かすために使用します。
  5. 生理食塩水(クエン酸ナトリウムを含む)・・・血管内の血液を抜くための洗浄水です。クエン酸ナトリウムを加えるのは凝固を防ぐためなのですが、入れなくても問題ないかも知れません。
  6. 10ml容シリンジ・・・血管を洗浄するために、生理食塩水を注入するのに使用します。
  7. ピンセット・・・血管はとても細いので何かとピンセットが欠かせません。


■ 方法 ■
  1. アルミサッシの隙間などに詰めるシリコン充填剤
    組織を溶かすための水酸化ナトリウムを用意します。

  2. 輸尿管,動脈,静脈を探し出します。

  3. ※血管標本を作るならば腎臓を切断してはいけません。
    腎臓の断面図です。皮質,髄質が確認できます。

  4. ※血管標本を作るならば腎臓を切断してはいけません。
    腎臓の断面図です。
    私は医師ではないので断言できませんが、腎盂を取り囲むように存在する十数個の小豆色のものは腎錐体だと思います。すなわち、髄質が十数個のブロックに分かれているということです。尿の生成はネフロンから始まり、自然界の川のようにいくつもの支流が合流して最終的には尿管に集まります。

  5. 血液を洗浄するために生理食塩水を動脈,静脈から注入します。
    指でしっかりと押さえないとうまく注入できません。

  6. 真ん中の切れ目は、検査による傷です。
    そのため、多少充填したシリコンがでてきます。
    白いのがシリコンです。

  7. シリコンはすぐ固まるので、すぐに水酸化ナトリウム水溶液に入れました。
    この画像は水溶液に入れてから10分ほど経過したときのものです。

  8. ふさふさした感じになってます。
    肺よりも溶けやすい感じがします。



■ 結果 ■
  1. 完成した血管標本です。
    ちなみに中の液体は、3%食塩-5%エタノール(3g食塩+5mlエタノール)/100ml水)です。
    食塩はシリコンが浮くようにするため、エタノールは腐るのを防ぐためです。
    本当に腐らないかどうかはわかりませんが。
  2. 今回は腎臓の血管標本を作りましたが、解剖をして構造を確認するのも面白いです。ただ、高校の教科書には「糸球体」や「ボーマン嚢」などの細胞レベル、あるいは比較的小さなレベルの組織の構造の勉強が主体で、肉眼で確認できる部位のキーワードはあまり出てこないような気がしますので、解剖を行う意義が大きいとは言いにくいと思います。


■ コメント ■
  1. 入手した腎臓に深い切れ目が入っていたため、完全な血管標本は作れませんでした。また、シリコンは粘度が高いため、うまく充填できませんでした。
    低粘度のエポキシ樹脂などを使えばもっと良い標本ができるかもしれません。ちょっと値段的に高いんですが。


■ 参考 ■
  • 尿を生成する器官は腎臓であり、生成された尿は尿管を通って膀胱に集められ、用に応じ排尿反射によって、尿道から体外に排出される。
  • 腎臓は、脊柱の左右両側にある一対のそら豆形をした重さ130~140g程度の臓器である(ヒトの場合)。
  • 腎臓は第11胸椎から第3腰椎にあるが、右側の腎臓は上部に肝臓があるために左側より0.5~1椎体ぐらい低い。
  • 尿管は、腎臓で生成された尿を膀胱に導く左右一対の円柱形の管で、長さは約25~28cmに及ぶ。尿管の壁は輪状筋と縦走筋の平滑筋層からなり、自律神経によって支配されている。
  • 膀胱の最大容量は約800mlである。
  • 尿道の長さは、男性で約18cm,女性では約3~4cmである。
  • 腎臓を縦に切った割面をみると、外側にある顆粒状に見える皮質と、内側にある放射状構造を持つ髄質に分けることができる。髄質は十数個の腎錐体からなり、腎錐体の先(腎乳頭)が腎盂に向かって集まっている。
  • 糸球体は、糸まり状に絡まり合った毛細血管の塊からできている。糸球体に入る血管を輸入細動脈,出る血管を輸出細動脈という。
  • ボーマン嚢は、直径約200μmぐらいの管の盲端が球状に膨大したもので、その中に糸球体を包み込んでいる。糸球体とボーマン嚢をあわせて腎小体とも呼んでいる。
  • 尿細管(細尿管ともいう)は、ボーマン嚢に続く全長3~4cmの管で、ボーマン嚢に近い方から近位尿細管,ヘンレ係蹄,遠位尿細管に分けられる。糸球体,ボーマン嚢,尿細管をネフロン(腎単位,nephron)といい、1個のネフロンの全長は集合管を含めると45~65mmで、このようなネフロンが1個の腎臓に約100万個存在する。
  • 腎臓は、体内の不要物を濾過し、排出することが最大の役割だが、体液量の調節,体液浸透圧の調節,血液のpH調節,内分泌なども担っている。腎臓は、レニンや腎造血因子(エリスロゲニン)という二種のホルモンを産生する内分泌器官でもある。
  • 尿生成の第一段階は、糸球体を流れる血液からボーマン嚢への濾過で、すなわち原尿の生成である。この濾過は受動的な拡散によるもので、化学実験における濾紙による濾過と同じ原理である。糸球体の濾過膜は三層からなっており、物質の通過についてはわからない所も多いが、種々の実験から濾過膜には分子半径35.5Å(オングストローム,1Åは10のマイナス10乗分の1m)の細孔があると考えられる。したがって、血球やほとんどのタンパク質は通過せず、低分子の物質やイオンなどが比較的自由に通過できる。
  • 濾過は、濾過圧に比例するため、糸球体血圧が低下すると濾過が抑制される。したがって、ショックなどで血圧が急激に低下したとき、無尿になったりする。また、種々の腎疾患の時、血尿やタンパク尿がでるのは、糸球体の濾過膜の透過性が増加するためである。
  • 健康な成人では、原尿量は1日約150~160リットルにも達するが、尿として排出されるのは1.0~1.5リットルにすぎず、ほとんどが尿細管を通る間に血液中に戻されることを意味している。
  • 原尿が尿細管を通過するときに、尿細管と尿細管周囲毛細血管との間で物質のやりとりが行われるが、物質が毛細血管内に移動する現象を再吸収といい、逆に尿細管に移動することを分泌という。
  • 原尿にはNa+(ナトリウムイオン),Cl-(塩化物イオン),HCO3-(炭酸水素イオン),C6H12O6(ブドウ糖)などが含まれるが、これらの99%、ブドウ糖については100%が再吸収される。H+(水素イオン),アンモニア,有機酸などは分泌により血液中から除かれる。
  • 再吸収と分泌は、単純拡散と担体輸送による。担体輸送による再吸収には最大輸送量(Tm)があり、いくらでも再吸収できるわけではない。このような担体輸送による再吸収をTm制限性再吸収という。ブドウ糖はその働きを受けるため、血糖値が正常範囲にある場合にはすべてが再吸収され尿中には排出されない。しかし、著しく血糖値が高くなると、濾液中のブドウ糖濃度が高くなっても再吸収能力はTmで飽和してしまうため、結果的に尿中にブドウ糖が検出される(糖尿)。これは健康な人でも、食事後血糖値が高まって糖尿が見られることがある。そのため、腎臓検査(尿検査)は食事を摂る前の尿で行う。
  • 尿の濃縮は、尿細管や、集合管壁の水透過性によって変化するが、集合管壁の水透過性は下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン(ADH)によって調節されている。ADHの分泌が増加すると、水透過性は高くなり、水の再吸収が促進され、尿は高張となり、尿量は低下する。
  • 膀胱壁の平滑筋は排尿筋とも呼ばれ、副交感神経の刺激によって排尿筋が収縮し排尿を行う。また、膀胱側から尿道に向かって内尿道括約筋,外尿道括約筋がある。内尿道括約筋の主な役割は射精時に収縮して精液の逆流を防ぐことで、交感神経刺激によって刺激され収縮する。すなわち、副交感神経によって排尿が促される。一方、が尿道括約筋は陰部神経の支配を受けて随意的に収縮する。
  • 正常な排尿は、排尿反射によって行われ、膀胱内に尿が貯留すると、膀胱壁内の進展受容器進展されることによって始まる。
  • ヒトの膀胱容積が150mlくらいで尿意を感じ始め、400mlで膀胱の充満感を覚え、700mlくらいで痛みを感じるようになる。