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理科実験の試み
生物教員である作者による理科実験の実践や試みの紹介
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はじめに
用意するもの
方法
結果,成果
考察,コメント
参考,文献


豚の肺の気管標本

作業時間:約1週間 肉を溶かすのに時間がかかります。3日でも可能ですが忙しいです。



■ はじめに ■
  • 豚の肺の気管の標本です。
  • 気管の中にシリコンを充填し、組織を溶かして、シリコンでできた気管の標本を作ります。
  • 白いシリコンで作れば非常にきれいな標本が完成します。気管が幾重にも枝分かれしている様子がよくわかります。


■ 用意するもの ■
  1. 豚の肺・・・近隣の食品会社から頂きました。腎臓の血管標本のページでも書きましたが、理科用の臓器販売業者でも購入できます。最近は業者から購入していませんが、以前は数回購入したことがあります。
  2. シリコン・・・サッシ等の隙間充填用のシリコンです。ホームセンターの日曜大工コーナーなどで、200円前後で販売しています。
  3. シリコン充填用コーキングガン・・・日曜大工コーナーなどで、200円程度で販売しています。
  4. 水酸化ナトリウム・・・肉を溶かすために使用します。
  5. プラスチックトレイ・・・水酸化ナトリウム溶液に漬け置きするための容器です。


■ 方法 ■
  1. シリコン、シリコン充填用のコーキングガン、水酸化ナトリウムを用意します。
    シリコンは白色と透明タイプの2種類が販売していました。
    両方とも試してみましたが、白色の方が断然きれいでした。

  2. 豚の肺は食品会社から頂きました。
    ちょっと残念なのは左右が切り離されていることですが、頂けるだけでもありがたいですかね。

  3. 気管の中にシリコンを充填します。
    充填するときは思い切り、注入します。
    破裂するのではないかと心配するくらいの力を込めました。

  4. シリコンが、肺やシリコンの重みによって変形した状態で固まらないように、注入後すぐに水中に浮かべます。
    5~10分後、水酸化ナトリウム溶液中に浸します。

  5. 水酸化ナトリウム溶液中に浸しておくと、徐々に組織が溶けていきます。

  6. ある程度組織が溶けてきたら熱湯を注ぎます。
    すると、組織がとれて真っ白なシリコンだけが残ります。
    組織が残ってしまう場合は、また水酸化ナトリウムに浸し熱湯をかけます。
    これで標本が完成しますが、トータルするとかなり水酸化ナトリウムに漬けていました。

  7. こちらの画像は水酸化ナトリウムの溶液を鍋に移し、加熱したときのものです。
    これは失敗例です。この方法でやると、シリコンにゴミが残ってしまいます。
    こうなると水酸化ナトリウムに浸しても漂白をしても電流を流してもまったく落ちません。
    また、鍋もボロボロになります。

  8. 何とかシリコンに付着したゴミをとろうとして考え出した方法が「酵母」に分解させることです。
    1週間以上かかりましたが、酵母を加えることでゴミが分解されました。
    たぶん超音波洗浄でもある程度はきれいになると思います。
    もちろん、高校の理科室にはそんな機器はおいてないので試してません。
    めがね用の小型超音波洗浄器が手頃な値段で販売されていますが、標本が大きくて入りません。



■ 結果 ■
  1. 完成写真です。画像をクリックすれば拡大図が現れます。
    ちなみに本校の理科室の、専用の水槽の中に入れてあります。


■ コメント ■
  1. 作業方法にも書きましたが、完成を急ぐあまり水酸化ナトリウム水溶液を鍋で加熱してしまいました。シリコンはまったく無傷なのですが、シリコンの隙間にゴミがたまったり、鍋の壁が溶けて薄くなってしまったりと、まったくおすすめできません。
  2. ダメもとで行った酵母によるゴミの分解が思ったよりも良好で、微生物の力を密かに感じました。
  3. 完成した気管標本は写真にあるようにとてもきれいで、かつ複雑です。
    理科室を訪れる人たちは、水槽の中(魚は入れていません)の標本を見ては、口々に「きれいだね」と言います。しかし、材料が豚の肺と知ると複雑な表情をしていました。


■ 参考 ■
  • 成人の肺胞の平均直径は220~300nm,総数は両肺で3~6億個と推定され、呼吸面に当たる肺胞面積は呼気時30~50平方メートル,深吸気時で100平方メートルにも及ぶと言われ、肺毛細血管の容積は100~200mlにも達すると言われている。
  • 呼吸運動とは、肺を拡張収縮させて肺内の空気を更新させることをいい、肺自体にはその能力がない。肺の表面と胸郭および横隔膜の内面とを被っている胸膜の間が陰圧になっているために、前後,左右径の拡大・収縮すること(胸式呼吸),また、横隔膜の収縮弛緩によって上下径が変動すること(腹式呼吸)の二つによって全く他動的に行われている。
  • 延髄の網様体内復側に吸息中枢が散在し、その外背側に呼息中枢があるといわれる。この二つの中枢の作用によって吸息と呼息との切り替えが行われているわけだが、種々の実験から、吸息中枢優位で、これに種々の刺激が働いて呼吸運動が行われていると考えられている。吸息と呼息の中枢が同時に興奮することはない。
  • 脳橋の下2/3ぐらいのところに持続性吸息中枢,脳橋の上部背面の両側に呼吸調節中枢があり、周期的な呼吸のリズムを生じさせているといわれている。
  • 脳幹および左右頸動脈分岐部に化学受容器があり、血中CO2濃度が高くなると、それがH2CO3→H+(水素イオン)+HCO3-(炭酸水素イオン)の反応を起こし、H2が受容液を刺激して呼吸を促進する。一方O2の変化による呼吸の変化はあまり著明ではない。
  • 呼吸数は年齢,体位,環境などの変化、精神的興奮などによって異なり、意識的に変化させることもできるが、安静時成人で16~20回/分,5歳で26~28回/分,新生時では40~50回/分くらいである。
  • 肺活量は、日本成人男子で3,500~4,000ml,女子では2,500~3,500mlである。肺活量とは、予備吸気量,1回の呼吸量,予備呼気量を合わせたものである。1回の呼吸量は、安静時において1回の呼吸によって肺に出入りする空気の量で、約500mlである。正常の吸気後努力すれば1,500~2,000mlの空気を吸うことができ、これを予備吸気量という。また、正常の呼息後努力すれば1,500mlの空気を呼出することができ、これを予備呼気量という。
  • 呼気成分、すなわち大気成分は、酸素20.94%[158~159mmHg],二酸化炭素0.03%[0.3mmHg],水5.4mmHg,窒素596mmHgである。一方、呼気成分は、酸素16.4%[116mmHg],二酸化炭素4%[28~33mmHg],水39mmHg,窒素565~575mmHgである。
  • 肺胞内に取り込まれた空気中のO2は、肺胞を取り巻く毛細血管網の壁を通して血液中に取り込まれ、血液中のCO2が肺胞内に放出される。このような現象をガス交換といい、体内では肺と末梢の組織とで行われており、それぞれ肺呼吸、組織呼吸といわれている。
  • ガス交換とは、血中のさまざまなイオンによる連鎖的な反応で起こる。すなわち、肺でヘモグロビンHbがO2を受け取ると、結果的に放出されたH+(水素イオン)がHCO3-(炭酸水素イオン)と結合し、H2CO3→H2O+CO2となり、CO2が放出しやすくなる。また、末梢組織ではO2を放出するときにH+を取り入れ、より弱酸となるので、結果的に酸を緩衝していることにもなる。
  • 赤血球膜は陰イオンをよく通すが、Na+(ナトリウムイオン)やK+(カリウムイオン)などの陽イオンを通しにくい。このため、末梢では陽陰イオンのバランスを保つためにCl-(塩化物イオン)が赤血球内に取り入れられ、肺胞ではこの逆の現象が見られる。これをクロール移動という。