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イカの解剖
作業時間:2時間 解剖は1時間でできますが、調理したり食べたりするのなら2時間です。
■ はじめに ■
- この授業は自由選択科目の「生物Ⅰ」の授業で行いました。
- 動物の器官の構造や働きを学習を経て、3学期の一番最後の授業に行います。基本的に動物の体は、動物の種類が違っても構成する主たる器官は同じです(断言すると語弊がありますが・・・)。それは、同じ地球に生き、その地球に適応した結果でしょう。
- 栄養を摂取するためには、「口」があり、「胃」「腸」がありますし、大量のエネルギーを作るためには酸素が必要で、ヒトには血液や肺があります。これはイカの場合も同じで、同様の消化器官があります。たまたまヘモシアニンという呼吸色素を持っているために淡青色の血液であったり、肺の代わりに鰓(えら)を持っているだけで、同じような働きを持つ器官がたくさんあります。
- この授業では、イカの解剖を通して、それぞれの器官の観察や働きの理解、また、生物学的分類の学習が目的です。さらに付け加えるなら、最後の授業なので、一緒にイカを食べて終わりにしようというお楽しみ会的な要素もあります。
- この実験はいくつかの文献(書籍)を参考にして書いたつもりですが、なにぶんアドバイスをもらえる人が近くにいませんので、自分の推測の域をでないところもあるかもしれません。その際にはメールにて指摘頂ければ幸いです。
■ 用意するもの ■
- スルメイカ(新鮮なもの。吸盤が手に吸い付くぐらいの鮮度だとベターです。古いと内臓がぐちゃぐちゃになっています。)
- 解剖バサミ(1本。ピンセットは必要ありません。)
- まな板(なければ新聞紙を引いてその上にアルミホイルを敷いても可)
- 調味料(醤油,生姜など)
- 調理器具(アルミホイル,割り箸,ホットプレートなど)
- ゴミ袋等
■ 方法 ■
- 私見ですが、この解剖は生徒に一つずつ指示しながら進めていくと良いと思います。イカの解剖は、淡々と観察するとあっという間に終わってしまいます。生徒はかなり興味深く取り組むので、折角ですから雑学的なことも含めていろいろなことを教えてあげると良いでしょう。
- 臓器の確認がよくできない場合には、液体をを注入するとわかりやすいです。例えば、醤油(50%程度に薄めたもの)を直腸に注入すると胃や盲嚢がみるみるうちに茶色くなり、はっきりと確認できます。動脈に注入すれば心臓がどれなのかがわかるはずです。ただし、血管の場合には、イカが閉鎖血管系であることから、血液の逃げ場を作らなければなりません(破裂するので)。食べないことを前提にするならばさまざまな色素で注入すれば良いでしょう。食べることを前提とするならばやはり醤油が一番ですが、彩りを加えたければ紫キャベツの色素を食酢で赤にしたものや牛乳なども面白いです。
- イカをまな板の上に置きます。最後には食べるのでよく手を洗っておきましょう。
漏斗のある方が腹側で、ない方が背中側です。左下の写真は腹側です。
- 何も切らない状態で観察します。
例えば観察する箇所は次の通りです。
---> 腕,触腕,吸盤,眼,漏斗,口など
▲(左)口の周りに黄色っぽいような白いつぶつぶがあればメスの可能性があります。
(右)扱いが雑な生徒の例。腹部を圧迫されてイカスミが出てきています。
- 雄か雌か見極めましょう。
ポイントは「腕」です。スルメイカの雄の右第4腕の先の方には吸盤がありません。しかし、見極めは難しいです。そこで生徒には、すべての腕の先の吸盤の様子を見比べて異なるものがあるかどうかを聞くと良いと思います。ここではあくまでも推定とし、性別の判別があっているかどうかは解剖してのお楽しみとすれば良いでしょう。
ちなみに、外套膜(がいとうまく:袋状の体のこと)が20cm以下のイカでは、生殖腺が未成熟でわからないことがあります。
- 次に腹側を正中線に沿って切開します。
そうして外套膜を「干しするめ」のように開こうとすると、漏斗付近が鳩目ぼたんのように外套膜(がいとうまく)につながっていますので、引っ張ってはずします。
次のことを確認しましょう。
- 肝臓の感触を確かめましょう。
- 墨汁嚢を観察しましょう。
- 直腸を観察しましょう。
出口、すなわち肛門を探します。肝臓の上には墨汁嚢,直腸,大静脈があります。区別するためにはこれらを押してみて、墨が出れば墨汁嚢,糞がでれば直腸,何も出ない(出口のない管)が大静脈です。
墨汁嚢から続く墨汁管は、直腸と合流し、いわゆる“イカスミ”は肛門から排出されます。
▼(右)イカスミで文字を書いた!
▼(左)直腸に醤油(50%に薄めたもの)を注入した写真
- 鰓(えら)を触ってみましょう。
鰓には「出鰓静脈」と呼ばれる太い葉脈のような管があります。この中には血液が入っているわけですが、その色を確認しましょう。
ヘモシアニンという呼吸色素を持つために血液は「淡青色」です。
- 胃を観察しましょう。
灰色がかった黒になっていることが多いですが、消化の具合などによっては赤っぽいこともあります。
▼消化管以外の余分なものを除き、消化管内に醤油の水溶液を注入してあります。
- 生殖器官を観察し、性別を判定しましょう。
多分初めて見る生徒にとってはわかりにくいところだと思います。手っ取り早いのは実験をしている周りの生徒のものと見比べることです。すると2種類に大別できます。私の場合(私見なので断言はできませんのでご了承を!)、2つないし3つのポイントを見ます。
【ポイント1】
「輸精管」と「輸卵管」の見極めです。きめの細かい模様のようになっているのが輸精管で1本しかありません。輸卵管は「左輸卵管」と「右輸卵管」の2つ存在します。輸精管も輸卵管も白いので、色では判別しにくいです。
【ポイント2】
纒卵腺(てんらんせん)です。これは雌にあるのですが、同じような長さ形で2つ存在します。雄では、雌の纏卵腺のあるべき位置に精莢嚢がありますが、これは1つです。いずれも白いので、やはり色では判別しにくいです。
【ポイント3】
口の周りを確認します。口の周りに黄色がかった白い粒がついているのは雌の特徴です。これは精子の入った袋で、精莢といいます。イカの種類によっても異なりますが、スルメイカは産卵の数ヶ月前に雄が雌に精莢を付けます。これを交接といいます。これは受精の確率を高めることや雄と雌の成熟時期の違いなどの面で効率的な方法だと思います。もちろん、この精莢がないからといって雄と断言するのは早計です。
多分これで間違いないと思いますが、間違っていたらごめんなさい^^;
- 膵臓を確認しましょう。
下の写真から、膵臓から出ている導管が肝臓内に入り込んでいる様子がわかります。肝臓に傷を付けた覚えがないので、写真の通り、おそらく肝臓には導管のための穴が空いています。
- それぞれの器官を詳しく調べます。
- 漏斗部を正中線に沿って切り、楽器のリードのような弁があることを確認します。
- 胃を切開し、内容物を確認しましょう。
イカは肉食ですから、場合によってはエビや小魚がでてきます。何も食べていなければ透明な袋状です。空腹のイカに出会う確率かなり低いですが。
- 墨汁嚢と直腸を、肝臓から剥がしましょう。
肛門部をつまんで、ヒレ側に引っ張っていけば簡単に剥がれます。
- 肝臓を少し切り開きましょう。
この観察で、イカの塩辛で使われるのが肝臓であることに気づく生徒がいますので、ここまではあえて塩辛にはふれません。
- 心臓と鰓心臓を確認しましょう。
後大動脈を引っ張りながら辿っていくと心臓に行き着きます。また、鰓をずっと辿っていくと、鰓心臓が観察できます。
▼直腸から醤油を注入してあります。
- 内臓を剥がし、続いて軟甲も剥がしましょう。
内臓全体を手で掴み、頭部の方からヒレに向かって剥がします。このとき肝臓の背面に隠れがちな心臓や動脈が確認できますので、途中で剥がすのをやめ観察すると良いです。次に、プラスチックのような細く長い軟甲を剥がします。
▲食道をいじっているムービー
- 頭部を詳しく調べます。
- 眼をくり抜き、水晶体を取り出します。
イカの眼は体の大きさに比べて意外に大きいです。直径2cmくらいの眼球に、5mm程度のレンズがあります。硝子体はブタやウシのそれに比べて水っぽく、眼球に力を入れて切ろうとすると勢いよく吹き出ます。吹き出ても特に問題ないのであえて注意しません^^;
▼レンズで透かすと逆さまに見えます
- カラストンビ(嘴のようなもの)を取り出しましょう。
イカは肉食です。そのためかカラストンビと呼ばれる鋭利な口を持っています。しかしよくみると変な形です。口の筋肉などもあるのでとりづらいですが、手を傷つけないように注意して取り出し、観察します。このとき十数センチ以上の食道も取り出せます。
- 脳を観察しましょう。
眼球付近から、腕と腹部を離すように切断します。
■ 片付け ■
- 外套膜と腕を食べやすい大きさに切ります。
- アルミホイルで包み焼きにします。まずアルミホイルにイカを入れ、さらに肝臓を1/4かけら加え、およそイカが浸る程度に醤油を入れます。軽く混ぜ合わせ、包んで、それをホットプレートに乗せて3~5分ほど焼きます。
- 食べます。
■ コメント ■
- イカの解剖には大きな3つの目的があると思います。
- 一つ目は、各器官の観察です。授業ではヒトの器官を扱っていますが、それらの知識を正しく持っていればイカの内臓もおおよそ同様であることがわかるし、同定もできます。例えば、「胃がどれだかわからない」と言う生徒がいても、食道や直腸を確認できれば器官を推定できます。また、大動脈はわかりやすいので、そこから辿って心臓を探し当てることもできます。たしかに器官は独立していますが、器官系を理解していれば観察は面白くなります。
- 二つ目は、生物の分類の勉強です。食材としての魚介類の話題から入っていくとスムーズに話が進みます。また、なぜタコを1杯,2杯・・・と呼ぶかということに対しても「なるほど」という展開になっていくので説明をする方も甲斐があります。
- 三つ目は、常識(?)的な勉強です。調理を行う上でイカの肝臓は重要です。塩辛などはまさしく肝臓のなせる料理です。しかし、意外なことに生徒たちにとっては肝臓は食材外なんですね。包み焼きにするときに、「肝臓を少し入れた方がいいよ」とアドバイスしても、多くの生徒は入れません。肝臓入りのイカと食べ比べたときに「コクがある」と気付くのですが、私はこれぞ実験だとほくそ笑んでいます。
- 雌雄の区別について、私は参考文献を片手に観察していたので始めは苦労しましたが、慣れてくると簡単でした。雄の貯精嚢がわかりやすいので、まずはそれを一見すればわかります。
- 消化器系,循環器系を確認する方法として有効なのは、醤油を注射器で注入する方法です。牛乳でも水でも構いません。始めは胃や盲嚢が確認しづらいかもしれません。直腸から50%くらいに薄めた醤油を入れれば胃や盲嚢に醤油が貯まっていきます。また、血管に注入するという方法もありますが、イカは閉鎖血管系なので、圧力が高くなって無尽蔵には入りません。また、心臓は血液の関所みたいになっています。
- その他、イカについての詳細をプチテキストにまとめましたので、そちらをご覧下さい。
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