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理科実験の試み
生物教員である作者による理科実験の実践や試みの紹介
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はじめに
検出方法
定量方法
作者より


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デジタル機器・・・応用


タンパク質の検出,定量方法



■ はじめに ■
  • タンパク質の検出方法は高校の化学だけではなく、大学(もちろん文系など専門外は別)などではさらに専門的に学びます。間違いなく学びます。それだけタンパク質は重要だからです。
  • ここでは、レベルによらず、代表的な検出方法,定量方法を示します。
  • 私の研究テーマの一つ、「デジタル機器を利用した簡易比色定量とその応用」の中にLowry法がでてくるので、念のためこのページを作りました。


■ 検出方法 ■
  1. ビュレット反応
    タンパク質水溶液にNaOH水溶液を加え、次に希CuSO4水溶液(“希”は“薄い”という意味)を加えると、赤紫色に呈色する。これはCu2+(銅イオン)とプロトンを失ったタンパク質の窒素原子との結合に基づく。
    高校の教科書の実験例では、10倍に希釈した卵白溶液の上澄み液2ml,10%NaOH水溶液2ml,1%CuSO4水溶液1滴を利用。

  2. キサントプロテイン反応
    タンパク質水溶液に濃硝酸(“濃”は“濃度が高い”という意味)とともに加熱すると黄色になる。冷却後アンモニア水またはNaOH水溶液を加えると、橙色となる。これはタンパク質中のベンゼン環がニトロ化されることに基づく。
    高校の教科書の実験例では、10倍に希釈した卵白溶液の上澄み液2ml,濃硝酸1ml,10%アンモニア水3mlを利用。

  3. スルホサリチル酸反応
    タンパク質水溶液にスルホサリチル酸溶液を少量加えると、白色沈殿を生じる。反応は鋭敏で、尿タンパク質の検出などに用いられる。

  4. タンパク質中のSの検出
    濃NaOH水溶液と酢酸塩水溶液を加えて熱すると、黒色のPbSが生成する。これは、NaOHによってタンパク質中のSがNa2Sとなり、さらにPbSを形成することによる。

  5. タンパク質中のNの検出
    NaOHを加えて熱するとNH3が発生する。そのため塩基性の性質を示すので、赤リトマス紙を青くしたり、濃塩酸を付けたガラス棒から白煙を生じたり、ネスラー試薬を黄褐色にしたりすることで検出できる。(ネスラー試薬はアンモニウムイオンを検出する)

  6. ニンヒドリン反応
    注)タンパク質の検出ではなく、アミノ酸の検出。
    アミノ酸水溶液にニンヒドリン溶液を加えて加熱すると、青紫~赤紫色になる。これをニンヒドリン反応という。
    ちなみに、指からは汗に混じって微量のアミノ酸が出ているので、この反応を利用して指紋を検出することができます。


■ 定量方法 ■
  1. ケルダール法
    三大栄養素の中で、窒素はタンパク質特有の元素であり、タンパク質中に6%前後含まれているため、窒素の量を求め、タンパク質量を推定する方法がケルダール(Kjeldal)法である。
    しかし、窒素はアンモニア化合物や遊離アミノ酸など他の物質にも含まれているので純粋なタンパク質量とは言えず、粗タンパク質となる。

    [方法]
    1. タンパク質に濃硫酸を加え、酸化剤(K2SO4)及び触媒(CuSO4)とともに加熱すると、酸化反応と還元反応が起こり、このとき窒素はアンモニアとなり、アンモニアは硫酸と反応して硫酸アンモニウムとなり硫酸中に残る。
    2. ここに過剰の濃水酸化ナトリウムを加え、加熱することによってアンモニアが留出する。
    3. 留出したアンモニアを一定濃度の硫酸標準液に取り込み、未反応の硫酸を水酸化ナトリウム標準液で滴定し、硫酸と反応したアンモニア量から窒素量を求め、タンパク質量を算出する。

  2. Lowry法
    Lowry法は、タンパク質中のペプチド結合がアルカリ性でCu2+(銅イオン)と反応して紫紅色の錯体をつくる性質を利用したビュレット法と、チロシン,トリプトファン,システインの側鎖と反応するフェノール試薬(リンモリブデンタングステン酸ナトリウム溶液)とを組み合わせた方法であり、タンパク質と反応すると深青色を呈するのを利用して定量する。-SHおよび-S-S-を含む化合物,フェノール類,アミノ酸,グリセロール,EDTA,TritonX‐100などは発色に影響を与えるので注意が必要である。

    [実験例]
    1. 次の溶液を調製。
      A液2(W/V)%炭酸ナトリウム/0.1mol/l水酸化ナトリウム500ml 1本
      B液0.5(W/V)%硫酸銅(..)五水和物水溶液10ml 1本
      C液1(W/V)%酒石酸ナトリウムカリウム水溶液10ml 1本
      D液1Nフェノール試薬
    2. 銅溶液の調製
      B液1mlとC液1mlを十分に混和後、A液49mlを添加して十分に混和する。
    3. 測定標準液の調製
      既知濃度の牛血清アルブミン水溶液(BSA)などを測定標準液として用意する。
    4. 試験管に正確に試料液0.2mlを分取し、銅溶液1mlを添加して十分に混和後、室温で10分間静置する。試薬ブランクは、試料液に替えてイオン交換水を用いる。
    5. 時間経過後、マイクロピペットなどでフェノール試薬(D液)0.1mlを添加して十
      分に混和後、室温で30分間静置する。
    6. 分光光度計で測定波長750nmの吸光度を測定する。呈色が濃いときには500nmで測定する。当然ながら、検量線も試料と同じ状態で作成する。
    7. 下の写真は実際に異なる濃度の溶液を呈色させたときのものです。一番左はタンパク質が入っていません。

  3. 紫外部吸収法
    トリプトファン,チロシン,システイン,フェニルアラニン残基による強い吸収を280nm付近に示すこと、及び、ペプチド結合により200~220nmに強い吸収を示すことを利用している。ただし、核酸やヌクレオチド類の吸収も大きいので、その点を補正するために予め260nmと280nmの吸光度を測定して補正算出する必要がある。

  4. 色素結合法
    Orange GやAmide black 10Bなどの酸性色素が、タンパク質中のリジン,アルギニン,ヒスチジン残基及びN末端と強い親和性を有することを利用している。しかし、原理上、同一のタンパク質濃度の比較には用いられるが、種類が異なると比較ができない。


■ 作者より ■
  • 極論を言えば、物質の検出とは目的の物質が反応すればよいのでいくつもあります。
  • 例えば、牛乳にオレンジジュース(酸)を混ぜると凝集が起こります。また、ウイスキー(エタノール)を混ぜても同様です。一方、デンプン溶液にオレンジジュースやウイスキーを混ぜても変化はありません。牛乳中のカゼインというタンパク質が酸やアルコールによって変性するためこのような反応が見られます。
  • しかし、反応するから良いというものではありません。もしその反応が不純物による反応では身も蓋もありません。
  • したがって、検出方法とは、如何にして目的の物質だけに反応するかが重要になります。(あるいは如何にしてサンプル処理---不純物の除去---をするか)
  • タンパク質の場合、構成するアミノ酸が20種類あり、それらの構成割合もタンパク質の種類によってまちまちであることから、試料によって最適な検出方法が異なり、以上のようにたくさんの検出方法があるということになります。
  • ちなみに基礎的な高校の化学ではタンパク質の抽出や分子量測定など(ゲル濾過やSDS-PAGEなど)は扱いませんのでここでは割愛しました。
  • 私見ですが、これまでいくつかの大学の研究室でタンパク質の定量を行いましたが、試料が異なれば同じ定量法であっても、文献を参考に、加える溶液の量や分光計測の吸光波長を変えていました。専門書に“○○%の溶液”と書いてあっても試料の性質によって濃度や量を変えることはざらです。大切なことは、試料の濃度と反応結果に確かな因果関係が認められることです。
  • 私が高校の知識で大学の化学実験を行い始めた頃、「本に書いてある量と違う!」「参考文献の手順と若干違う!」と戸惑っていましたが、反応と濃度の因果関係が裏付けられていれば(多くの場合は参考文献で確認)問題ありません。ただし、実験方法の詳細も残さなければなりません(これはどんな場合でもそうですが・・・)。
  • 大学レベルの内容まで記述しましたが、一般的に高校では、ビュレット反応,キサントプロテイン反応,ニンヒドリン反応を学びます。