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理科実験の試み
生物教員である作者による理科実験の実践や試みの紹介
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マウスの迷路実験

作業時間:1日 マウス次第です。1ヶ月かかることも。しかも夜しか実験できません。



■ はじめに ■
  • マウスの迷路実験です。
  • あまりにも代表的な実験ですが、目の前でやっているのを見たことがありません。資料や教科書に載っていますが、やはり、実際にやってこそ実験!ということで行いました。


■ 用意するもの ■
  1. 迷路・・・ホームセンターのペットコーナーに販売していました。
  2. マウス・・・栃木県立宇都宮白楊高校より頂きました。

  3. マウス用の餌・・・ペットを販売しているところやホームセンターなどで売っています。
  4. 裁縫用の糸・・・餌を引っ張るための紐です。
  5. 飼育セット・・・おそらく一度では成功しないのでしばらく飼育することになるでしょう。私は2,3週間飼育していました。


■ 方法 ■
  1. 商品名:habitrail SAFARI MAZE
    総輸入発売元:株式会社トリオコーポレーション ヘーゲンジャパン事業部
    ちょうどよい迷路が販売されていたので、それを利用しました。

  2. 左側を入口、右側を出口として行いました。
    市販されている固形状のペレットを迷路の出口においておきます。

  3. マウスが出口までたどり着いたら餌にありつけるという寸法です。
    しかし、全部食べさせてしまうと満腹になってしまうので、画像のように餌にひもを付けておいて、マウスにとられないようにしておきます。
    マウスにはかわいそうだけど・・・

  4. 実際の映像です。
    これは60回目に行ったときのもので、マウスは最短距離で餌までたどり着けるようになりました。
    映像ファイルは、mpg形式に圧縮して約560KBになっています。



■ 結果 ■
  1. 結果(通常のグラフ)

  2. 結果(対数表示のグラフ)


■ コメント ■
  1. マウスは計62回も迷路を通過しました。
    マウスにとって最大の難関は出口付近です。
    ここは透明なプラスチック1枚を挟んだところに餌があるのですが、実はぐるっと回らなければ出口の餌にたどり着けないようになっています。
    マウスはなんとか透明なプラスチックの壁をくぐろうとしていましたが、途中から“その方法ではダメだ”と学んだようでした。
    結果のグラフを見てわかるとおり、マウスが迷路を学習しているのは一目瞭然です。
  2. この実験は予想以上に苦戦しました。
    何と言っても、動物相手だということが一番の理由です。
  3. まず、如何にしてマウスが出口に向かうようにし向けるかが問題です。
    最終的には餌で意識付けしたわけですが、そのためには空腹でありながら元気な状態のマウスを用意しなければなりません。
    当然、マウスと話すことはできないのでよく観察しなければなりません。
    程良い空腹状態を作るのがとっても難しい!
    個体差もあるし・・・。ちなみに成功したマウスは約2日程絶食させたものです。
  4. 実は、今回大変素晴らしい結果を出せましたが(と思っている)、10匹ぐらいのマウスを2週間近く毎日試みたのに、成功したのはこの1匹の、たった1日だけです。
    それ以外は迷路に入っても出口を探そうとしません。
    あるいは出口まで来ても餌に何の反応も示さなかったり・・・
  5. この方法では駄目かもしれないということで、電気ショックや水を使ったりしました。
    電気ショックは、迷路の下にアルミホイルを敷き、100円ライターなどの圧電素子(カチッと鳴って火花を作る装置)でショックを与えるというものです。
    アルミホイルの面積が大きいためショックが弱く、マウスは反応しませんでした。
    本当に電流を流してみましたが、熱が発生したり、パワーを強くしたら死んでしまうのではないかというのが怖くて断念しました。
    迷路にぬるま湯を浸し、マウスはそこから逃れるために出口を探すのでは?と考えたのですが、やはり出口まで行きません。
  6. 結局、マウスが試行錯誤するのではなく、こちらががあれこれ試行錯誤した末、餌を使った実験で1回だけ成功したというわけです。
  7. また、みなさんご存じの通りマウスは夜行性です。
    昼間の実験はまったく期待できませんでした。
    もし可能なら、授業中に実際に迷路実験をしたいというのが本音です。
    しかし、それは到底無理だということで、デジカメの映像を5分程度に編集して利用しました。
  8. 気になる生徒の反応は・・・大成功です。
    苦労話をするとさらに興味津々といった感じでした。
    こういう反応があるとさらなる教材研究のパワーが貯まってきます。


■ 参考 ■
  • 経験によって行動が変化する過程を学習という。
  • 最も単純で消極的な学習として「慣れ」がある。慣れは刺激特異的な反応低下による。クロウタドリの雛は親の形に反応して口を開けるが、モデルを繰り返すことによって、一旦停止した反応は、巣を揺するという別の刺激を与えるとただちに回復する。これは、環境からの無用な刺激に対して無駄な反応をしないための適応の意味を持つ。
  • パブロフ(Pavlov)の研究で有名な「条件反射」は、動物がもともと持っている反応性をそれとは元来関係のない刺激と組み合わせて学習によって作られる反射のことで、この過程は、古典的条件づけと呼ばれている。これは正の強化(肉などの報酬)や負の強化(電気ショックなどの罰)と条件刺激を組み合わせて学習させることによって、形成,消去される。
  • 条件反射は、自然界で餌の味と外見とを連合させて避けるようになる学習などに関係している。
  • 対して、ある報酬を受けるために動物が特定の行動をとるようになる過程を「試行錯誤学習」と呼ぶ。スキナー箱や迷路に代表される実験である。この学習には融通性があり、迷路を学習させた後、曲がり角の角度を変化させても正確に反応するし、途中に水をためても泳ぎ渡る。したがって、動物は単に筋肉運動のパターンだけを学習しているのではなく、経路の全体像を学習すると考えられる。
  • 動物が試行錯誤によらず、速やかに問題を解決する現象を「洞察学習」と呼ぶ。ネズミがよく知っている迷路に障害物を置かれると、すぐ最も近い回り道を選ぶ行動がそれである。これは、動物が過去の経験と現在の状況とを組み合わせて、頭の中で試行錯誤の思考実験を行った結果であるとも考えられている。
  • これまでの「学習」とは少し性質の異なったものに「刷り込み」がある。これは出生後間もない特定の時期にのみ起こる一種の学習と考えられている。ガンの雛の追随行動は有名だが、カモなどでは音に対して刷り込まれる反応が強い。
  • 刷り込みの効果は生涯持続するが、反応は成長とともに変わる。
  • 追随反応の対象となったものが、後には性的伴侶としての対象となる例も多い。これは性的刷り込みという。
  • 刷り込みの研究は鳥類で多く行われているが、哺乳類でも多くの似た現象が見られる。ヤギの母親は出産後仔ヤギと5分間一緒にいるだけで自分の子として扱う。これは幼児以外の時期に起こる刷り込みの例である。
  • 学習による行動変化の可能範囲は生得的に定まっていると考えられる。穴居性のネズミは迷路学習する能力を持ち、一方、カエルは苦い虫の特徴は速やかに学習する。つまり、種によって学習する内容が異なり、一概に学習能力を比較することはできない。
  • 動物には学習衝動があるという考え方もある。鳥類や哺乳類で身の回りの環境を特別の動機なしに探索するものは多い。このように新奇なものを刺激として求める行動は特に幼児に強く現れる。これを「探索行動」という。また高等哺乳類や少数の鳥に見られる遊技行動は、種々の動きが順序も強さもまちまちに現れるという点で探索行動と区別されるが、これも刺激を求める行動と言える。どちらも欲求行動とは異なり、特定の動因によって起こるものではない。このように動物には、普段から環境について特定の報酬なしに学習を行う生得的傾向があり、それがいざというときの生存を助けていると考えられる。