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理科実験の試み
生物教員である作者による理科実験の実践や試みの紹介
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背景と目的
用意するもの
原理と方法
結果
考察


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タンパク・・・定量方法


デジカメ簡易比色法について

作業時間:約10時間 サンプル処理や化学反応時間を除き、測定値を求めるだけなら数分です。


■ 背景と目的 ■
  • 高校の設備でタンパク質などの濃度を求めること(定量)は困難です。定量ができないがために踏み込んだ実験ができないことがよくあります。また、生徒の発展的な考察が期待できないなどの問題点も生じます。
  • そこで、特別な機材を使わずにできる定量法を考えました。
  • また、それを用いた応用実験例として、酵素実験を紹介します。
  • 以下の図は酵素の性質をグラフ化したもので、教科書によく載っている図です(一部は専門書からの引用なので難しい表記がありますが、高校では反応速度に関する数的処理は行いません)。現行の酵素実験では定量ができないのでこのようなグラフを導くことはできません。そこで、今回は実験によってこのようなグラフを作ります。


■ 用意するもの ■
  1. デジカメ・・・解像度は気にしなくてよい。携帯電話のカメラでもパソコンに画像を送れれば可能。
  2. 画像処理ソフト・・・私は使い慣れているAdobeのPhotoshopを利用しましたが、GIMP,Dibasなどのフリーソフトでも可能であることを確認しました。
  3. パソコン・・・画像処理ソフトを使うため。
  4. プロジェクタ・・・必須ではありませんが、データの測定の様子を生徒に見せるために使用しました。

       


■ 原理と方法 ■
  1. 下の写真はオレンジジュースを水で薄めたものです。
    左の試験管から、100%(原液),80%,60%,40%,20%,10%(蒸留水)となっています。
    水で薄めれば薄めるほど色は透明になっていくのがわかります。

  2. さてここで、「ジュースの濃度が低くなること」と「色が透明になること」に相関関係があれば、透明度から濃度を算出することができます。
    ではどのようにして透明度を数値にするのか?解説していきましょう。


  3. 画像処理ソフトは色を数字データとして扱います。
    パソコンは、RGB方式といって、R(赤),G(緑),B(青)の三色の強さで色を表現しています。
    古いブラウン管を間近で見ると三色の光源があるのがわかると思いますが、それです!
    現在の液晶やブラウン管テレビは解像度が高く、目を凝らしてみても中々見えませんが、確かに三色で表現しています。試しに携帯電話の映像が白色の液晶部分に水滴をたらしてみてください。水滴がレンズの働きをして赤と緑と青が見えますね。
    デジタルカメラも概ねRGB方式です。
    デジカメで撮った画像を画像処理ソフトに読み込むと、RGBの強さを情報ウインドウで確認できます。
    下図はAdobe Photoshopの場合です。ソフトによってそのウインドウの形状は異なります。


  4. RGBそれぞれの強さは0~255の256段階で表します。
    ちなみにホームページを作成している人はよく理解できると思うのですが、ホームページでは青の強さを16進法で00~ffのように表しますよね?
    この00~ffの16進法を10進法で表すと0~255なのです。
    図のようにすべてが255の状態は、それぞれの光が最大量ということなので「白色」を意味します。
    逆にすべて0だとすると「黒色」となります。
    また、図の右側にCMYKというものがありますが、シアン,マゼンダ,イエロー,ブラックのことです。
    こちらは主にプリンタなどで用いられる表示形式で、0%~100%の数値で表します。
    余計なことも書きましたが、この情報ウインドウを見れば色を数値データで表すことができます。

  5. 実際にオレンジジュースの色を画像処理ソフトで測定してみました。
    赤、緑、青のそれぞれのデータを測定し、グラフにしてみると、下図のようになります。
    縦軸は画像処理ソフトによる測定値、横軸はジュースの濃度です。


    1. 青、赤は、緩やかな曲線を描き、濃度と測定値に相関関係がある。
    2. 緑は、相関関係が見られない。

  6. 以上のように、青と赤の測定値を利用すれば定量が可能です。
    例えば未知試料の測定値をこのグラフの縦軸にあてはめ、オレンジジュースの濃度がでます。このように色を手がかりにして濃度を調べることを比色定量といいます。
    通常は、分光光度計と呼ばれる特殊な機材を用いて、特定波長の光の吸光値で定量を行います。
    今回の方法は、分光光度計の代わりにデジカメとパソコンで使って定量が可能であることが大きな長所です。
    ただし、一つ問題があります。
    このようなグラフを検量線というのですが、本来検量線は直線であるべきというのが常識です。
    研究レベルでは曲線の検量線は誤差が大きく信頼できないのですが、生徒の実験という教育現場での使用ということを鑑みれば許容できるのではないかと思います。


    ▼追試▼
    分光光度計はランバート・ベールの法則によって吸光度を求めます。同様にデジカメ簡易比色法による測定値を片対数グラフにすると直線が作られます。


■ 結果 ■
  • ここでは生徒実験についてではなく、デジカメ簡易比色法についての基礎実験の結果を示します。

  1. 専門の研究において、多くのタンパク質は「Lowry法」という方法で定量します。
    薬品などを加え、タンパク質を呈色させ、その色合いを分光光度計で測るというものです。
    原理はビウレット反応を応用したようなものです。
    ビウレット反応が基本なので、必ず高校生の教科書にはこのビウレット反応が紹介されますし、テストにも出題されます。
    そのような観点から言うと、Lowry法は大学(研究)レベルです。
    詳しくは、プチテキスト「タンパク質の検出,定量方法」をご覧下さい。 ---> こちら
    そのLowry法で呈色後分光光度計で検量線を作ると(左図をクリックすると拡大図が現れます)直線になります。



  2. 今度は、まったく同じ試料(Lowry法で呈色させた試験管)を、デジカメ簡易比色法で測定しました。
    完全な直線とはなりませんが、かなり直線に近い曲線です。
    このデジカメ簡易比色法ではR,G,Bの3つのグラフが作られますが、最も適したグラフを1つ選んで利用すれば問題ありません。
    (ちなみに、直線に近く,ぶれがなく,測定値の最大値と最小値間の幅が大きいグラフが適しています。)



  3. 次の二つはスキムミルクの検量線です。一つ目は大きな曲線を描いていますが、注目すべきは二つ目のグラフです。

    下のグラフは上のグラフの測定値を、1~100のスケールに置き換え、片対数グラフにしたものです。するとほぼ直線に近いグラフが作られます。
    ちなみに分光光度計の透過率は、ランバート・ベールの法則で説明できるように曲線を描きます。それを吸光値という形で、片対数の検量線を作っています。
    すなわち、デジカメ簡易比色法も分光光度計と同じような検量線が作られるということです。


  4. 次に撮影条件による測定値の変化の様子を調査しました。
    条件は具体的に、ISO感度,露出,日照,ライトボックスなどです。
    その結果、よりよい実験結果を出すためには、最適の条件があるということがわかりますが、必要以上に条件に縛られる必要もなさそうです。
    ただ、露出に関してはすぐに測定限界に達してしまうので、設定はいじらずに、固定しておくべきです。
    当然ながら、ISOや露出、その他の条件は実験の途中で変えてしまうのはNGです。




  5. さらに、撮影条件が変化することによって誤差がどれくらいになるかを求めました。
    正確に言うと変異係数で、これは測定結果のバラツキを示すものです。
    (詳しくは専門の統計学書か、当HPに掲載したオリジナルの「統計学のススメ」をご覧下さい。)
    それによると、ライトボックスを使えば測定値の誤差はかなり小さくなります。
    また、ライトボックスを使用すれば、通常の日の当たる部屋でも暗室でも誤差は変わりません。
    すなわちライトボックスを使えば暗室で行う必要はないということです。
    自然光での撮影は予想通り一番誤差が大きくなります。
    ライトボックスが使えない環境で測定をするならば、部屋の中央の太陽光が届きにくい場所で撮影をしたり、カーテンや暗幕をして部屋の照明をコントロールするのがベターでしょう。



■ 考察 ■
  1. デジカメ簡易比色法はデジカメを使うので、生徒にとって馴染みやすく、操作もしやすく、分光光度計よりも理解しやすいです。

  2. デジカメ簡易比色法は、試験管を並べてまとめて撮影すれば良いため、分光光度計や簡易比色計などのように試料を一つずつ計測する必要がなく、時間も手間も大幅に短縮できます。
    パソコン上で画像からデータを取得するのもカーソルを試料の上に乗せるだけで、クリックさえも必要ありません。

  3. デジカメ簡易比色法は、スキムミルクの定量で片対数グラフにして直線の検量線が作られることから十分な精度を持っていると思います。
    ちなみに、スキムミルクを高校の教科書で頻繁に登場するビューレット反応で呈色させてみましたが、もともとビューレット反応は検出が目的で、定量するためのものではなく、定量は不可能でした。

  4. デジカメ簡易比色法で使うものは、準備の項で書いたとおりです。
    画像処理ソフトはフリーソフトを利用すれば買う必要はありませんし、パソコンは大方の高校に配備されています。したがって、(私の勤務する県での話ですが)実質的にデジカメだけあれば定量が可能です。
    しかも酵素実験は時間にあわせて行いますので、実験開始時間をずらせば一台のデジカメでも10班は対応できます。
    実習助手の先生の助けがあればデジカメを2台買って20班でも対応が可能です。
    特筆すべきはデジカメ数台で可能だということです。
    デジカメの解像度は低くても構いませんので、数万円あれば大丈夫です。携帯電話で撮影してそれを読み込んで測定することも可能でした。
    もし、分光光度計を購入するとすれば100万円はかかるだろうし、簡易比色計を買うとすれば機器の性質上1班に1台が必要になるので、仮に10台購入すると100万円かかります。
    低コストです。

  5. デジカメ簡易比色法は、撮影によって測定をするので検量線ができれば試料が固体でも気体でも定量が可能です。
    あるところで工業の先生に、溶解炉の中の色合いを小窓で確認して次のステップに進むんだけど、それもデジカメ簡易比色法で可能なのかと聞かれました。
    専門用語があったのでこんな感じの質問でしたが、色と温度に相関関係があれば可能でしょう。
    これは固体での例ですが、例えば夕焼けの色合いから太陽の角度も割り出せるのではないでしょうか?
    あくまでも推測ですが。
    何れにしても分光光度計などでは測定できない試料も測定できる可能性があります。

  6. ここには紹介していませんが、ヨウ素デンプン反応を利用した呈色反応で、デンプン量を定量することが可能であることを確認しました。
    ただし、デンプン分解酵素の活性は測定できませんでした。
    できないというよりは、今回紹介した酵素活性の方がはるかに良く、わざわざ不利な実験を選ぶ必要はないとの結論です。

  7. 補正値について。
    どうしても検量線を作成した条件と生徒が実験する条件は異なります。
    そこで、蒸留水と、酵素を加えない1.0%の試験管をそれぞれ0,100とし、0~100のスケールになおします。
    また、生徒実験の撮影時にも、蒸留水と酵素を加えない1.0%の試験管を試料と同時に撮影します。
    そして、生徒の測定結果も0~100スケールに補正し、補正した検量線から濃度を算出します。